2026.01.15
企業のメンタルヘルス対策とは何か?管理職・人事が知るべき基礎から研修までを解説
人手不足や働き方の多様化が進むなか、職場のメンタルヘルスは、企業の大きな課題になっています。メンタルヘルス不調による休職・離職、パフォーマンス低下を防ぎ、従業員が安心して力を発揮できる職場を作るには、体系的なメンタルヘルス対策と研修の活用が欠かせません。この記事ではメンタルヘルスの全体像をはじめ、会社としてやるべき取り組みや成功事例などを紹介します。
人手不足や働き方の多様化が進むなか、職場のメンタルヘルスは、企業の大きな課題になっています。メンタルヘルス不調による休職・離職、パフォーマンス低下を防ぎ、従業員が安心して力を発揮できる職場を作るには、体系的なメンタルヘルス対策と研修の活用が欠かせません。この記事ではメンタルヘルスの全体像をはじめ、会社としてやるべき取り組みや成功事例などを紹介します。
1.企業におけるメンタルヘルスとは?
「メンタルヘルス」と聞くと、うつ病などの病気だけを思い浮かべがちですが、本来はもっと広い概念です。ここでは、公的機関の定義をもとに、企業として押さえておきたいメンタルヘルスの基本を確認します。
メンタルヘルスとは「こころの健康状態」を指す言葉
メンタルヘルスとは、「こころが安定していて前向き」「ストレスを感じても対処できる」「自分の役割を果たせていると感じられる」状態のことです。WHOでは、
- 精神的健康:個人が自身の能力を認識し、生活の通常のストレスに対処でき、生産的に働くことができ、地域社会に貢献できる幸福な状態
- 健康:肉体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあることであり、単に疾病や虚弱がない状態のことではない
と定義されており、メンタルヘルスは健康にとって不可欠な要素であることが分かります。病気の有無だけで健康かどうかは決められないのです。
企業でメンタルヘルスを考える際も、病気の有無だけでなく、部下が上記のような状態で働けているかを見ることが重要です。
メンタルヘルス不調と精神疾患の違い
「メンタルヘルス不調」と「精神疾患(精神障害)」の違いをはっきり説明できるでしょうか。混同しやすい言葉なので、メンタルヘルスを考える人事・管理職の皆さんは両者の違いをしっかりと押さえておきましょう。
- メンタルヘルス不調:まだ医師の診断がついていない段階も含め、ストレスや不安、睡眠障害、意欲低下などにより、仕事や生活に支障が出始めている状態。早期に気づき、職場での配慮や相談につなげたい段階。不調には波がある
- 精神疾患:医師が診断し、治療や継続的な支援が必要と判断される状態。休職・復職支援や長期的な配慮が求められる
職場のメンタルヘルスの特徴
職場でのメンタルヘルスは、個人の問題だけではなく職場環境と密接に結びついています。仕事の量、職場の人間関係、評価など仕事に関するストレスはメンタルヘルス不調の大きな要因の一つ。本人の性格やライフイベントなど個人要因と職場環境が相互に作用して不調が生じます。
職場におけるメンタルヘルス不調は、対応が遅れると休職・離職や労災申請など企業にとってのリスクにもつながります。そのため、企業のメンタルヘルス対策は社員の自己管理に任せるのではなく、職場環境の整備やマネジメントのあり方などを含め個人・組織の両面で考えることが重要だといえます。
2.なぜ今、企業がメンタルヘルスに取り組む必要があるのか
メンタルヘルス対策は、今や企業にとって避けられない経営課題です。ここでは、法的義務・ビジネスリスク・心理的安全性の3つの観点から、なぜ企業がメンタルヘルスに本気で取り組む必要があるのかを解説します。
労働安全衛生法・ストレスチェック制度と企業の責任
企業のメンタルヘルス対策は、善意で行うものではなく法制度の枠組みとして位置づけられています。ストレスチェックは労働安全衛生法に基づく仕組みで、事業者の義務(従業員50人未満の企業は努力義務)です。
厚生労働省が示す「労働者の心の健康の保持増進のための指針」でも、メンタルヘルスケアを積極的に推進することが非常に重要な課題とされており、事業者はストレスチェック制度や心の健康に関する実施規定の策定、予防に関する研修・情報提供を行うことが求められています。
休職・離職・生産性低下などのビジネスリスク
メンタルヘルスは企業の業績に直結するテーマです。欠勤・休職・離職が増加すれば、代替要員の確保・採用コスト・引き継ぎロスが発生します。
また、プレゼンティーズム(不調を抱えながらの出勤)ではパフォーマンスが大きく低下し、生産性の低下を招くでしょう。さらに、メンタルヘルス悪化・精神疾患に係り訴訟になれば、企業にとって大きな痛手です。実際、精神障害に係る労災補償の請求・認定は増加傾向にあるという調査結果もあり、無視できない問題となっています。
メンタルヘルス不調を「個人の問題」として放置することは、結果的に企業にとっての人的資本・経営資源の損失につながるといえます。
エンゲージメント・心理的安全性の向上
メンタルヘルスに取り組むことは「リスク軽減」だけでなく組織のポジティブな成果にもつながります。
心理的安全性が高い環境では失敗を恐れず意見や相談ができるため、イノベーションが生まれやすくなります。また、心身の健康状態が良好で、いきいきと働いている従業員はワークエンゲージメント(仕事に誇り・やりがいを感じ、活力を持って働いている状態)も高く、生産性が高いことは言うまでもありません。
人事・管理者は、メンタルヘルス対策を「不調者を減らすために仕方なくやる対策」から「社員が安心して力を発揮できる環境をつくるための投資」へと位置づけの転換していくことが重要です。
3. 職場で起こりやすいメンタルヘルス不調のサインと原因
不調はいきなり重い状態になるわけではなく、必ずサインがあります。職場で見られやすいメンタルヘルス不調のサイン・背景にある原因を確認し、一次・二次予防の出発点にしていきましょう。
メンタル不調のサイン:行動・感情・身体の変化
職場のメンタルヘルス不調は、まず以下のような小さな変化として現れます。
- 行動面の変化:遅刻や欠勤の増加、ミスが増える、作業スピード低下、報連相が減る、イライラしやすくなるなど
- 感情面の変化:表情が乏しくなる、元気がないなど
- 身体の変化:眠れない、食欲がない、頭痛や胃痛が続くなど
「いつもと違うな」という違和感を見逃さないようにしましょう。
組織要因:長時間労働・ハラスメント・コミュニケーション不足
職場の構造がメンタル不調の要因になることもあります。長時間労働、人手不足、達成が難しいノルマ、役割や評価基準の不明確さは大きなストレスとなるでしょう。
また、上司・同僚からのハラスメントや、相談しづらい雰囲気、情報共有の不足など、コミュニケーション面の問題も不調の原因となります。
個人要因:性格傾向・ライフイベント・スキル不足
同じ職場環境でも、メンタルヘルス不調の出方には個人差があります。これはその人の弱さによるものではなく、個人の背景が原因です。
例えば、責任感が強く完璧主義で抱え込みやすい人は過重な負担を背負いがちです。仕事の難易度に対しスキルや経験が不足している場合も自己否定感を生みやすいでしょう。また、育児・介護・病気・転居などのライフイベントも仕事のストレスと重なると負担になる可能性があります。
働き方の多様化も新たな要因に
テレワーク・ハイブリッド勤務・非正規雇用、副業など、働き方の多様化は「自由な働き方」というメリットの一方で新たなストレスも生んでいます。
オンライン中心の業務では、何気ない雑談やちょっとした相談をする機会が減り、孤立感を抱きやすくなっています。また、勤務時間と私生活の境界があいまいになり、長時間労働やオン・オフの切り替えが難しくなるケースもあります。
4.メンタルヘルス対策の3段階と「4つのケア」
厚生労働省は、職場のメンタルヘルス対策を「一次・二次・三次予防」と「4つのケア」で整理しています。この基本フレームを企業の実務に合わせて考えることで、抜け・漏れのない対策を立てられるでしょう。
一次予防:働きやすい職場づくりとストレス要因の低減
一次予防は「不調が起こる前に、職場要因そのものを減らす」段階で、組織の課題といえます。
業務量や残業時間の適正化、役割・期待の明確化、人員配置の見直し、ハラスメントを許さない風土づくりなどを中心に、ストレス要因を減らす取り組みを整理すると良いでしょう。
二次予防:早期発見と早期対応の仕組みづくり
二次予防は、不調の早期発見・早期対応によって重症化を防ぐ段階で、管理職の課題といえます。
ストレスチェックやセルフチェックの結果、上司や同僚が気づいたサインを相談窓口や面談につなげる仕組みをつくることが重要です。管理職・人事・産業医・保健スタッフとの連携を整え、小さな違和感を拾い上げる仕組みを作っていきましょう。
三次予防:休職・復職プロセスと職場復帰支援
三次予防は、メンタルヘルス不調で休職した従業員の職場復帰を支える段階で、人事の課題といえます。
休職中の連絡や情報提供、医師との情報共有、勤務時間の配慮、リワークプログラムの活用などがポイントです。復職後もしばらくは再発リスクが高いため、無理のないペースでの復職をサポートすることが重要です。
「4つのケア」で考える関わり方の分担
厚生労働省は職場のメンタルヘルスケアを、以下の「4つのケア」で整理しています。
- セルフケア:従業員自身がストレスに気づき対処する
- ラインによるケア:管理職による職場環境改善と相談対応
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア:産業医・保健師・人事労務による専門的な支援
- 事業場外資源によるケア:外部機関や専門家の活用
社内で「誰がどこまで担うのか」を明確にし、4つのケアが切れ目なく機能する体制を整えることで有効性の高いメンタルヘルス対策につながるでしょう。
5.管理職・人事が押さえておくべきメンタルヘルス対応スキルとは
制度や仕組みを整えるだけではメンタルヘルス対策は機能しません。カギになるのは、日々のマネジメントを担う管理職と、全体設計を担う人事のスキルです。ここでは、現場で求められる具体的な対応力を整理します。
管理職に求められるラインケアの基本
ラインケアは、管理職が主体となって行うメンタルヘルス対策です。部下の変化に気づき、声をかけ、話を聞き、必要に応じて業務量や期限を調整し、産業医や人事など専門家につなぐというのがラインケアの内容になります。常日頃から部下と近い位置でコミュニケーションを取っている管理職がラインケアのスキルを持っていれば、メンタルヘルスの一次予防に大いに貢献できるでしょう。
特別なカウンセリング技術はなくてもかまいません。重要なのは、「日頃から部下をよく見ておくこと」「いつもと違うサインを見逃さないこと」です。日常の1on1やミーティングを、ラインケアの場として活かしましょう。
部下の変化に気づく観察と声かけ、正しい面談スキル
「最近、残業が増えている」「ミスが目立つ」「表情が固い」など、部下のささいな変化に気づけるかどうかが、早期発見の分かれ目です。仕事内容だけでなく、勤務態度や表情、会話量を日頃から意識して見ることを習慣にし、小さな変化に気付ける上司になりましょう。
気になるときは「最近どう?」などと短い声をかけをすること、1on1面談では評価や指導から入らずオープンクエスチョンで聞き出すことが大切です。
傾聴・共感・質問スキルなどのコミュニケーション力
メンタルヘルス対応で「何を話せばよいかわからない」という管理職の皆さんもいるでしょう。重要なのは、助言よりも「傾聴・共感・質問」を意識することです。話を最後まで遮らずに聞き、「大変だったね」と共感し、「職場でできることはあるかな」と一緒に考える姿勢を示すことで、部下も話しやすくなるでしょう。
管理職向けのコミュニケーション研修で質問の仕方、共感的なフィードバックのコツなどを磨くのもおすすめです。
制度や研修、専門家との連携体制を構築する設計力
メンタルヘルス対策を現場任せにしないための土台作成を担う人事においては、仕組みづくりのスキルが重要です。
就業規則や休職・復職制度、ストレスチェックや相談窓口の運用設計に加え、メンタルヘルス研修やラインケア研修の企画・実施も大切な役割となります。
また、産業医・保健師・EAP(従業員支援プログラム)など専門家との連携窓口となり、管理職が一人で抱え込まなくて済む体制を整えることも重要です。「困ったときに相談できる仕組みがある」という安心感を作っていきましょう。
6.研修が組織のメンタルヘルス対策に効果的な理由とは
メンタルヘルス対策を「知っている」と「できている」の間には大きなギャップがあります。その橋渡しをしてくれるのが研修です。ここでは、なぜメンタルヘルス研修が組織づくりに有効なのかを見ていきましょう。
行動は知識だけでは変わりにくい
資料配布やeラーニングだけでは、「忙しくて実践できない」「部下にどこまで踏み込んでよいか不安」ということになりがちです。単なる知識付与ではなく、具体的な対応イメージを持てる学びが必要なのです。
研修は「気づき」と「行動のきっかけ」をもたらす
研修により自分事として考える機会を持つことで、具体的な行動変化につながりやすくなります。
例えば、ロールプレイやケーススタディで部下への声かけの言葉選びや、相談を受けたときの対応を実際にやってみることで具体的な行動イメージが湧くでしょう。日常のコミュニケーションを振り返る「気づき」の場となるのは研修の大きなメリットです。
外部研修の活用で負担軽減、効果的な対策が可能
人事部だけでメンタルヘルス研修を設計・実施するのは負担が大きい場合もあるでしょう。セゾンパーソナルプラスの研修なら、メンタルヘルス研修やラインケア研修、ハラスメント防止研修などを階層や課題に合わせて組み合わせられます。
人事担当者の負担を抑えつつ、現場の行動変化につながる仕組みづくりを目指すことができるでしょう。
7.メンタルヘルス対策に役立つ研修テーマ例
ここからは、実際にメンタルヘルス対策を強化するうえで有効な研修テーマを、対象別・目的別に紹介します。
社員向け:メンタルヘルス研修
職種・階層を問わず、ストレスとの付き合い方と職場の心の健康づくりを学ぶプログラムです。メンタルヘルスの基礎知識とその重要性を押さえたうえで、ストレスのメカニズムを理解し、ストレスをためないための各種の対策方法を学習します。自分の心を守るセルフケア力が高まる研修となっています。
管理職向け:メンタルヘルス/ラインケア研修
ラインケアの基本や、不調のサインへの気づき方、部下との面談スキルなどを学ぶ管理職向け研修です。声のかけ方・話の聞き方・人事や産業医へのつなぎ方を具体的に練習できるため、「知っている」で止まりがちな管理職の対応を「できる」レベルへ引き上げることができます。
管理職向け:心理的安全性向上研修
心理的安全性は、イノベーションやチームパフォーマンス、従業員エンゲージメントと深く結びついています。メンタルヘルス対策とエンゲージメント向上を両立したい場合に有効なのは「変化する時代に対応する為のマネジメント研修」。心理的安全性やエンゲージメント、アンコンシャスバイアスを学べる管理職向け研修です。
全社向け:ハラスメント防止研修
セクハラ・パワハラなどの定義や事例、発生した際のリスクや対応を学び、「加害者にも被害者にもならない」職場づくりを目指すプログラムです。NGラインや指導との違いを具体的に確認し、日常のコミュニケーションを見直します。メンタルヘルス不調の大きな要因である職場の人間関係改善にも直結するテーマです。
8.事例で学ぶ:メンタルヘルス対策・研修の成功パターン
ここでは、ラインケア研修・ハラスメント防止研修・心理的安全性向上施策を組み合わせて取り組んだ事例を紹介します。実際の進め方と成果のイメージを描いていきましょう。
事例1:製薬会社でのマインドフルネス研修でストレスが低下
従業員約3,300人を対象に、週1回・1時間のマインドフルネス研修を8週間実施した製薬会社では、研修前後でQOL・気分・ストレスを測定したところ、6回以上参加した人は「日常役割機能」や「心の健康」が有意に改善する結果になりました。
また、ネガティブ感情やストレスも低下し、参加者の8割が「終了後も続けたい」、全員が「会社が実施する意味がある」と回答しました。
事例2:物流会社での予防型セルフケア・ラインケア研修
ある物流会社では、メンタルヘルス不調者が出やすいタイミング(春先)に合わせて、セルフケアとラインケアの研修会を実施し、社内カウンセラーが講師を務めました。カウンセラーの人柄・専門性が伝わったことで重症化する前段階での相談窓口利用が進み、一次予防(不調の予防)と二次予防(早期発見)の両方が強化されました。
「季節要因を踏まえた予防型のメンタルヘルス研修」と「社内カウンセラーとの信頼関係づくり」がセットになった、実務的に応用しやすい好事例といえます。
事例3:IT企業でのサーベイ活用とチーム改善
あるIT企業で、年1回のエンゲージメントサーベイで他チームと比べてエンゲージメントが低いチームがありました。そのため、オンライン振り返り会を実施するほか、以下の対策を行いました。
- タスク管理ツールを使った「日次朝会+タスクの可視化」で、誰がどれだけ抱えているかを共有し、タスクの依頼・巻き取りをしやすくして業務負荷を平準化
- 週次チーム会に雑談とグッドニュース共有の時間を設け、上長からの一方通行だった会議を双方向の場に変えた
- 四半期ごとに対面出社日と懇親会を設け、全国に散らばるメンバー同士の結束を高めた
これらの取り組みにより業務負荷の分散、会議での発言増加、テレワークでの連携改善等が報告されました。
産業保健スタッフや人事が直接関わるのではなく、人事部が事前に用意した「プレイブック」を現場の上長が活用し自主的な職場改善をした点が、他社にも応用しやすいポイントといえます。
9.研修を活用したメンタルヘルス対策で安心して働ける職場づくりを
メンタルヘルス対策は、社員の心を守り、安心して働ける職場をつくるための土台です。同時に、意欲や働きがい、生産性を高め、退職を防ぐことで会社の利益にもつながります。
一次予防・二次予防・三次予防と4つのケアを意識しながらバランスよく対策を進めることが重要です。また、制度やストレスチェックの運用と管理職・社員向けの研修の連動も欠かせません。
自社だけで抱え込まず外部の専門家や研修サービスも活用しながら、働き続けられる安心・安全を守っていきましょう。
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新入社員~経営層まで各階層の役割・ミッションに応じた知識・スキルを学べる研修カリキュラムです。
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