2025.09.17
コールセンターにおけるコーチングの重要性と実践方法 | オペレーターの能力を最大限に引き出す方法

コールセンターの品質向上に欠かせないのが、オペレーターへの効果的な指導です。その中でも特に注目されているのが「コーチング」という方法。一方的な知識の伝授ではなく、オペレーター自身の気づきや成長を促すコーチングは、顧客満足度の向上やオペレーターのモチベーション維持に大きく貢献します。本記事では、コールセンター業務におけるコーチングの基本から実践方法、成功のポイントまでを詳しく解説します。
コールセンターの品質向上に欠かせないのが、オペレーターへの効果的な指導です。その中でも特に注目されているのが「コーチング」という方法。一方的な知識の伝授ではなく、オペレーター自身の気づきや成長を促すコーチングは、顧客満足度の向上やオペレーターのモチベーション維持に大きく貢献します。本記事では、コールセンター業務におけるコーチングの基本から実践方法、成功のポイントまでを詳しく解説します。
1.コーチングとは

「コーチング」とは、適切な指導やアドバイスなどのコミュニケーションによって、相手が自ら能力を伸ばしていくよう促す育成方法論のひとつです。元々は「Coach(馬車・客車)」という言葉に由来し、「人を目的の場所に送り届ける」役割から、「目標達成を助ける取り組み・人」という意味で使われるようになりました。
1950年代になると、ビジネスの世界でも部下育成マネジメントの手法としてコーチングが普及し始めました。特にマネジメントの分野では、部下の成長を促すためのコミュニケーションのひとつとして、積極的に取り入れられています。
コーチングの目的
コーチングの目的は、指導対象となる人の自立的な成長を促すことにあります。従来の指導方法では、指導者が一方的に知識や解決策を提供することが中心でした。しかし、コーチングでは「人間は自己実現のため、主体的かつ能動的に行動するものである」という前提に立ち、能力を高めるための答えは指導を受ける本人の中にあると考えます。
コーチングは、コンタクトセンターにおいて「スーパーバイザー(以下、SV)など指導すべき立場の人がオペレーターの能力・資質を把握し、各自に合わせた指導(助言などのコミュニケーション)によって、業務のクオリティーを向上させること」と言えるでしょう。具体的には、オペレーター自身が最適な対応を判断できる力を培い、自律的に解決策・改善策を探せるようになることを目指します。
コーチングの基本スタンス
コーチングでは、「相手との対等な立場を保つ」「相手と一緒に目標を達成する」「相手の成長を根気強く待つ」という3つの基本スタンスが重要です。
「相手との対等な立場を保つ」ことで、上下関係を意識させず、オペレーター自身の積極的な発言を引き出します。上下関係を強く意識させると、オペレーターが主体性を失い、コーチングの本質を損なう可能性があります。そのため、リラックスできる雰囲気づくりをした上でコーチングを開始するのが一般的です。
「相手と一緒に目標を達成する」ことで、「共通の課題に取り組んでいる」という認識を持つことができ、改善策が見つかった時の満足感が高まります。時にはオペレーターだけではなく、指導者が気づきを得ることもあります。
「相手の成長を根気強く待つ」については、コーチングにおいて指導者がオペレーターに与えるのはヒントのみであり、答えそのものの提供は基本的にありません。自律的に解決策を見つけられれば、一方的に教えられた場合以上にその答えがオペレーターの中に定着する傾向にあります。
なお、コーチングの場では、指導者が20%、オペレーターが80%程度話すのが理想的な割合と考えられています。オペレーターに主体性を持たせ、自ら考える機会を多く提供することが重要なのです。
2.コールセンターにおけるコーチングの重要性

コールセンターの現場では、オペレーターが顧客との対応の中で様々な判断を求められます。マニュアルだけでは対応できない状況も多く、各々のオペレーターが自立して考え、適切な対応を判断できる能力が必要です。そのため、自律的に解決策を探せるようになるコーチングは極めて重要な指導方法と言えます。
コールセンターでコーチングをするメリット1:モチベーションの継続
オペレーターが個人で目標達成に取り組む場合、モチベーションが下がることも少なくありません。しかし、コーチングにおいては成果が出るまで指導者がオペレーターに伴走するため、モチベーションを維持しやすくなります。
また、コーチングは、相手のどのような考えや意見も承認することから始めます。したがって、オペレーターはサポートを受けながら、負の感情を抱くことなく目標に向かって意欲的に取り組めるでしょう。
これにより組織全体の士気が向上することで、生産性の向上や離職率の低下など、多くのメリットが得られます。特にコールセンターのように、日々の業務でストレスを感じやすい環境では、モチベーション維持は非常に重要な課題です。
コールセンターでコーチングをするメリット2:オペレーターの成長や気づきにつながる
コーチングを通じて、オペレーターはこれまで気づかなかった自身の強みを見つけやすくなります。
例えば、なかなか自信を持って提案ができないオペレーターがいるとします。コーチングを活用して自身の思考や行動を深く分析することにより、自信のなさが単に商品の知識不足や、適切な伝え方を知らなかったことに起因していると気づくかもしれません。
適切な知識や技術を習得すれば、苦手意識を克服し、今後は自信を持って苦情対応に臨めるようになります。これは応対品質や顧客満足度の向上にもつながる重要な変化です。
コールセンターでコーチングをするメリット3:主体性や自主性を身につける
コーチングは、指導者がオペレーターに気づかせ、目標達成を目指しサポートすることが主な目的です。一方的な指導や指示を与えることではなく、あくまでもオペレーター自身が考えることで、行動できるように導く点が特徴です。
コーチングを重ねることで、オペレーターの自発性や主体性を育むことで、状況に応じた柔軟で適切な対応ができるようになり、品質の向上にもつながります。またSVや上司の指示を待たず、その場で判断ができるようになるため、生産性の向上にも役立ちます。
結果として、コールセンター全体の品質向上にもつながるでしょう。オペレーターが業務を通じて、主体的に課題解決や対応品質向上に貢献するようになると、コールセンター全体で高品質なサービスを提供するサイクルの構築も可能になります。
3.コーチングの手順

コールセンターでコーチングを効果的に実施するには、以下の5つのステップを踏むことが大切です。
アイスブレイク
まず最初に行うのが、アイスブレイクです。オペレーターが緊張した状態では、自らの考えや気づきを見つけにくくなるため、リラックスできる環境づくりが重要になります。
アイスブレイクでは、指導者にとって重要なスキルである「承認」を積極的に活用します。これは、オペレーターのありのままの姿を尊重していることを意味します。承認されることでオペレーターは「認められている」「気にかけてもらっている」と感じ、良好な関係を築きやすくなります。
例えば、最近の業務で良かった点を伝えたり、オペレーターの趣味や関心事について簡単な会話をしたりすることで、リラックスした雰囲気を作ることができます。
課題特定・目的設定
アイスブレイクの後は、課題の特定と目的設定を行います。まず、目的や目標を設定する前に、現状の課題を明らかにする必要があります。課題の認識が不十分な場合、適切な目的や目標を設定できず、コーチングの方向性も定まりにくくなるため、オペレーターの悩みも解消に至りません。
課題を特定したあと、コーチングのゴールを設定し、オペレーターと確認していきます。課題と目的の間にギャップがあった場合には、否定せずにそのギャップを受け入れ、前向きに取り組む姿勢が重要です。
このステップでは、「あなたはどのような課題を感じていますか?」「今、最も改善したいと思うことは何ですか?」といった質問を通じて、オペレーター自身に課題を言語化してもらうことが効果的です。
アクションプラン策定
課題と目的が明確になったら、改善する方法を行動レベルで具体化し、アクションプランを決めていきます。
アクションプランは、オペレーター自身が課題の改善策を導き出すことが特に重要です。一方的に指導者がアクションプランを作成してしまった場合、単なる指導と変わらず、コーチングの効果を充分に得ることができません。オペレーターの自発的な行動促進のためにも、オペレーターと指導者が一緒に考える必要があります。
また、指導者はオペレーターが気づきを得られるよう、ヒントを与える必要があります。
「この課題を解決するために、どのような行動が必要だと思いますか?」「過去に同じような課題を克服したときは、どのような方法を試しましたか?」といった質問を通じて、オペレーター自身がアクションプランを考えるよう促します。
KPI策定
アクションプランに沿って各目標を達成するためのKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を策定します。KPIは目的達成に向けた中間目標として扱われる、数値やスケジュールなどの具体的な指標のことです。
KPIが達成されると、具体的な成果が見え、オペレーターの自信につながります。KPIを策定する際は、コールセンターで使われる指標を活用するのが望ましいでしょう。
コールセンターの代表的なKPIは、以下のようなものがあります。
- 平均処理時間(AHT):平均通話時間と平均後処理時間を合わせた、顧客対応全体に要した時間の平均値
- 応答率:コンタクトセンター全体の着信に対し、実際に電話がつながった割合を示す指標
- 平均応答速度:着信が発生してからオペレーターが電話を取るまでの平均時間
これらの指標の中から、オペレーターの課題に合わせた指標を選び、具体的な数値目標を設定します。例えば「3ヶ月以内に平均処理時間を現在の7分から5分に短縮する」といった形で設定するとよいでしょう。
定期的な振り返り・改善
アクションプランとKPIの達成について、定期的にチェックしていきます。次回以降のコーチングに活かしていくためにも、オペレーターと実際に面談をしてフィードバックを行うことが重要です。
効果検証と改善をくり返すことでPDCAサイクルが循環し、オペレーターのスキルおよびモチベーションの向上を促進していきます。定期的な振り返りの場では、成功した点を共に喜び、課題が残る部分については改善策を一緒に考えるようにしましょう。
オペレーターの応対品質向上につながるのは、コーチングのほかにフィードバックも。フィードバックについて知りたい方は、下記記事も参考にしてみてくださいね。
4.コーチングを成功させるために大切なこと、ポイント

コールセンターでのコーチングを成功させるためには、いくつかのポイントを押さえておくことが大切です。ここでは特に重要な3つのポイントを紹介します。
①一人ひとりの現状にあった目標を設定する
スキルや勤続年数が異なるオペレーター。個人が抱えている課題は、必ずしも周囲と同じとは限りません。コーチングの三原則をふまえ、一人ひとりの現状に合った目標を設定することが非常に重要です。
そのためには、各オペレーターに対して丁寧なヒアリングが必要になります。指導者は傾聴や質問、承認のスキルを活用し、オペレーターが適切な目標や行動計画を導き出せるようサポートする必要があります。
例えば、経験の浅いオペレーターには基本的なスキルの習得を目標にし、経験豊富なオペレーターには応用的なスキルの向上や後輩指導のスキルアップなど、それぞれの状況に合わせた目標設定を行いましょう。
また、目標設定の際には「SMART(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性がある、Time-bound:期限がある)」の原則を意識すると、より効果的な目標設定が可能になります。
②指摘や否定をせず、承認からスタート
コーチングは、まず「承認」が基本であり、オペレーターの存在や現状をありのまま受け入れることが大切です。たとえば、ミスが多いオペレーターへの「なぜミスをするのか」といった否定的な指摘や質問は、コーチングにおいて適切ではありません
否定的な指摘や質問をした場合、オペレーターが萎縮し、本音や真意を話さなくなる恐れがあります。誰にでも課題はあるため、まずオペレーターの現状を指導者が受け入れることが必要になります。
また、指摘や否定の代わりに、ポジティブな視点で捉えられるような質問を選ぶことがポイントです。例えば「なぜミスするのか」ではなく「どうすればミスを減らせると思いますか」と問いかけることで、オペレーター自身が解決策を考える機会を提供できます。
コーチングの場では事前に客観的なデータを用意しておくことも有効です。数値データを提示することで、オペレーターは自分の現状を客観的に把握し、納得しやすくなります。
③目標や課題は行動に移せるようにサポートする
コーチングにおいて、指導者はオペレーターが気づきを得られるよう、ヒントを与え続けることが求められます。しかし、気づきを得ても実際の行動に移せなければ、成長につながりません。
そのため、目標や課題を具体的な行動レベルに落とし込み、実践できるようサポートすることが重要です。「何をすべきか」だけでなく「どのようにすべきか」まで一緒に考え、オペレーターが実際に行動に移せるようにしましょう。
また、新しいスキルの習得や行動変容には時間がかかるため、小さな成功体験を積み重ねられるような計画を立てることも大切です。一度に大きな変化を求めるのではなく、段階的に目標を設定し、一つひとつクリアしていくことで、オペレーターの自信とモチベーションを高めることができます。
さらに、システムやツールの活用も検討するとよいでしょう。AI機能が搭載されたコールセンター向けシステムの導入は効果的です。感情や会話内容を解析できるシステムであれば、顧客とオペレーターのやり取りを分析し、データとして蓄積が可能になります。分析データを用いて振り返りを行うことで、オペレーターが自身の改善点や強みに気づきやすくなり、さらなるスキルアップが期待できます。
5.コールセンターの成長を加速させるコーチングの重要性と実践ポイント
コールセンター業務において、コーチングはオペレーターの自発的な成長を促し、顧客満足度の向上や業務効率の改善に大きく貢献する重要な取り組みです。
コーチングの本質は、「答えはその人自身の内側にある」という考え方に基づき、オペレーターの気づきや成長を指導者がサポートすることにあります。一方的な指示や知識の伝授ではなく、オペレーターが主体的に考え、本来持っている力を最大限に発揮できるようにすることがコーチングの役割です。
効果的なコーチングを実践するためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 対等な立場で対話し、リラックスした雰囲気を作る
- オペレーターの話を傾聴し、どのような考えも否定せず承認する
- 適切な質問を通じて、オペレーター自身の気づきを促す
- 一人ひとりの現状に合った目標設定とアクションプランを策定する
- 定期的な振り返りを行い、継続的な改善を図る
コーチングは単発で終わるものではなく、継続的に行うことでその効果を最大化できます。日々の業務の中にコーチングの機会を積極的に取り入れ、オペレーターの成長とコールセンター全体の品質向上につなげていきましょう。
コーチングによってオペレーターのモチベーションを高め、自己主導性を育むことが、サービスやコールセンター全体の品質向上につながります。それぞれのオペレーターに対してコーチングを実施するのは工数がかかりますが、顧客満足度の向上を期待するうえでは欠かせない取り組みと言えるでしょう。
セゾンパーソナルプラスのコールセンター研修
オペレーター研修
コールセンターのオペレーター向けにアポ取得率や応対品質の向上、クレーム応対・高齢者応対スキル獲得などを目指す研修をご用意しています。
SV研修
コールセンターのSV向けにチームマネジメント力や指導力、管理職スキルを養うための研修をご用意しています。
トレーナー研修
オペレーターの研修を担当するトレーナー向けにコーチングやモニタリングのスキルを養う研修をご用意しています。
管理者研修
コールセンターの管理者向けにセンターの運営・マネジメント力を養う研修をご用意しています。
研修・育成についての
ご質問・ご相談は
こちらから
コラム人気ランキング